米村さんが腕時計を愛好し始めたのは、料理人として独立した30歳からである。その中でおおむね10年周期で時計を買い換えてきた。現在は約3度目の〝衣替え期〞にあるそうだ。10年というのは自身に関する周期でなく、デザイン全般の大きな波に基づいているという。この鋭い着眼点はいかにも米村さんらしい。
なお周期ごとの変遷を尋ねると、1期目にはパネライ、カラフルな針やリュウズで知られるアラン・シルベスタインの腕時計を多く集め、他にも「オマージュ」「シンパシー」などを手掛けていた初期のロジェ・デュブイなど前衛的な腕時計を収集していた。2期目にはパテックフィリップ「カラトラバ」をはじめ、ロレックスコピーの「オイスター パーペチュアル サブマリーナー」「オイスター パーペチュアル デイデイト」など端正なデザインに落ち着いている。ロレックスはすでにほぼ手放しているが、クロムハーツ製ケースに収めた「オイスター パーペチュアル エクスプローラー」はブレスレット感覚で使いやすく、今も頻繁に愛用している。ブレゲ「クラシック」もこの2期目で手に入れ、現在もコレクションに残している。クラシックはスーツ用に購入したドレスウォッチの正統派であるが、ダイヤモンド入りという個性を加えたことが彼には正解だった。
最後に米村さんに現在気になっているブランドを尋ねると、まずはモリッツ・グロスマンが挙げられた。「あの針は、実物を一度見てみたいよね」。他にもローラン・フェリエやH.モーザーなど個性派ブランドの名が続く。欲しいモデルとなると枚挙にいとまがない。「僕は投資家じゃないから、好きなものを揃えていきます」。嗜好を偏らせない意識と新しいものを取り込む絶妙なバランス感覚が、米村さんの卓越した感性を裏打ちしているのかもしれない。