「コカ・コーラ」や「パープシー」の愛称で親しまれる二色ベゼルのGMTマスター。その長い歴史の中で、レファレンス「16750」は技術的な進化を象徴する重要な過渡期モデルとして、熱狂的なコレクターから高い人気を集めています。
1980年代前半に生産された16750は、前任者1675からの大きな進化を遂げました。最大の革新は、ムーブメントがCal.3075からCal.3085へとアップデートされた点にあります。これにより、独立した時針を1時間単位で前後調整できる「クイックセット」機能が搭載され、GMT機能の実用性が飛躍的に向上したのです。第二GMT時間の調整は、従来通り回転ベゼルを使用する必要がありましたが、日付の調整が格段に容易になり、現代のGMTマスターIIの操作性に大きく近づきました。
文字盤にも変化が見られます。初期型では夜光塗料に放射性物質のラジウムが使用されていましたが、後期型ではより安全なトリチウムへと移行。経年変化による独特のクリーム色へと変色する「トライチウム・ダイアル」は、ヴィンテージ愛好家にとって垂涎の的です。また、「GMT-Master II」の文字が初めて文字盤に刻まれたモデルでもあり、新旧の要素が混在する稀有な存在です。
ベゼルはアルミニウム製で、黒/赤や青/赤などのクラシックな配色が採用され、当時のポップカルチャーや航空業界の活気を今に伝えます。ステンレススチールと18金の両素材で展開され、そのスタイリッシュで機能的なデザインは、旅行者やパイロットのみならず、時代を代表する文化のアイコンとなりました。
ロレックスGMTマスター16750は、技術的過渡期ならではのバリエーションの豊かさと、経年変化(エイジング)が生み出す味わい深い美しさで、ヴィンテージロレックス収集において非常に興味深い位置を占めています。それは、革新と伝統の狭間で輝き、現代のGMTマスターIIの礎を築いた、比類のない一本なのです。