ロレックスの豊かな歴史の中で、公式カタログには記載されることのない、いわゆる「プロハンター」モデルは、特定の目的のために極めて限定して製作された特別な存在です。その中でもミルガウス プロハンターは、高耐磁性能という本来の特長に加え、「一段引き竜頭」という稀な仕様と、光をも吸収する漆黒のコーティングにより、一段と特異な地位を築いています。
その外観は、まさに「ステルス」。ステンレススティールのケースとブレスレット全体に施された黒色のPVDやDLCコーティングは、光沢を抑え、任務における潜伏性を高める役割を果たしました。これは、偵察や特殊な環境下で活動するプロフェッショナルのための、機能性を徹底的に追求した結果です。文字盤もまた漆黒に染め上げられ、ミルガウスの特徴であるオレンジの「サンダーボルト」秒針が、闇夜に閃光のように浮かび上がります。
この時計の最大の特徴の一つが、「一段引き竜頭」です。通常、日付調整機能を持つロレックスの竜頭は二段階で引き出されますが、このモデルは日付表示を廃したため、一段のみの引き出しで時刻調整が可能です。この簡素化は、特定の任務における迅速かつ確実な操作を目的とした、実用性の極致と言えるでしょう。
その心臓部は、軟鉄製のインナーケースにより1,000ガウスという驚異的な耐磁性を保持。科学研究所や医療現場など、強磁場が発生する環境でも確かな性能を発揮します。
ロレックス ミルガウス プロハンターは、単なる時計を超えた、特定の使命を帯びた「道具」。その漆黒のボディと特異な仕様は、所有する者の並外れた環境と要求を静かに、しかし力強く物語る、比類なき存在なのです。