ロレックスの「サブマリーナ」は、プロフェッショナルダイバーズウォッチの代名詞として広く知られていますが、その歴史には「ミリタリーモデル」と呼ばれる、軍用に供給された極めて希少なバリエーションが存在します。これらは市販モデルとは異なる細部を持ち、コレクターの間で「伝説」として語り継がれる存在です。
一般的なサブマリーナとの最大の違いは、その「ステルス性」にあります。光ることを極力避けるため、ステンレススチールのケースとベゼルは磨きを抑えたマット仕上げ。文字盤のロゴは省略され、針とインデックスも黒く塗装されたものが多く見られます。これは、任務中の不要な光の反射を防ぎ、潜伏性を高めるための工夫でした。また、防水性能を維持しつつも、静粛性を重視してベゼルの溝を浅くしたモデルも確認されています。
これらのミリタリーモデルは、イギリス海軍特殊部隊SBSや、いくつかの国の軍隊に納入されたと言われています。当然ながら公式の記録は乏しく、そのほとんどが時計愛好家の調査と、現存する実物によってその存在が証明されています。一部のモデルには軍の受理刻印(ブロードアローなど)が刻まれており、その来歴を物語っています。
ロレックス サブマリーナ ミリタリーモデルは、単なる時計を超えた、歴史の証人です。過酷な環境下で兵士と共に任務を遂行したその姿は、機能美の極致であり、所有する者は戦争という歴史の一片と、ロレックスが単なる奢侈品ではなく、確かな「道具」として信頼されていた時代を腕に刻むことになるのです。