ロレックスの「デイトナ」と聞けば、誰もが自動巻きクロノグラフの傑作を思い浮かべるでしょう。しかし、その輝かしい歴史の影に、ごく短期間だけ生産された「クォーツムーブメント」搭載のデイトナが存在したことをご存知でしょうか。これは、1970年代のクォーツショックという時代の波に立ち向かった、ロレックスの挑戦の証なのです。
その外観は、機械式モデルと比べてより繊細で、当時の時代を反映した洗練されたデザイン。当時としては画期的なロレックス初のクォーツムーブメント「キャリバー5035」を搭載し、月差±1秒という驚異的な精度を実現しました。文字盤には「Oysterquartz」の文字が刻まれ、その特別なアイデンティティを主張しています。
最大の特徴は、その独創的なケースとブレスレットのデザインです。機械式モデルの丸みを帯びたオイスターケースとは異なり、ファセット(研磨面)で構成された直線的でシャープなシルエットは、当時のモダニズムを感じさせます。これは、クォーツという新時代の技術を表現するためにデザインされた、他にはない特徴です。
生産期間が約25年と比較的短く、生産数も限られていたことから、現在では「幻のデイトナ」として熱心なコレクターの間で高い人気を誇ります。
ロレックス デイトナ クォーツは、ブランドが技術の変革期にどのように対応し、独自の美学を貫いたかを物語る貴重な存在。所有する者は、ロレックスの歴史の奥深さと、時代に翻弄されない確かな価値を腕に刻むことになるのです。