1980年代初頭から約8年間だけ生産されたロレックス GMTマスター Ref.16758は、GMTマスターの歴史において特別な輝きを放つ一本である。それまでのアクリル風防から傷に強いサファイアクリスタルを採用し、操作性に優れた双方向クリックバネ式ベゼルを初めて搭載したこのモデルは、機能面で大きな進化を遂げた。その黄金のケースに収められたムーブメントは、従来のキャリバー1575から改良されたクイックセット日付機能付きキャリバー3075を搭載し、より実用的な時計へと生まれ変わった。
このモデルの最大の魅力は、時代がもたらす“味わい”にある。長い歳月を経て、元々ブラウンだったダイアルやベゼルインサートが太陽光や湿気の影響で変化し、独特の「トロピカル(熱帯)」ダイアルと呼ばれるオリーブからオレンジ、あるいはコーヒーのような深い琥珀色へと変貌を遂げたものは、「バーント(焼けた)」とも称され、コレクター垂涎の的となっている。これはどのヴィンテージ時計にも再現できない「一期一会の芸術」である。
ダイアルの中でも特に「ニップルダイアル」と呼ばれる、縁が盛り上がった金のインデックスを持つ個体は非常に稀少で、視認性と立体感が高い評価を得ている。また、極めて生産数の少ない「SARU(サファイア&ルビー)」モデルは、ベゼルに青サファイアと赤ルビーを交互に配した圧巻の存在感を誇り、その出現頻度は極めて低く、オークションに登場するだけで話題となる至高のコレクターズアイテムである。
全盛期の1980年代当時、「ツールウォッチ」のスチール版とは異なり、18金無垢ケースにフルゴールドのジュビリーブレスレットを備えたこのモデルは、時代を象徴するラグジュアリーの証である。それは単なる時計ではなく、タイムカプセルの中に閉じ込められた、時代の空気と技術の粋を今に伝えるアートピースなのである。